第12回 実証事業からテレワーク全庁導入へ踏み切るまで【佐賀県庁のご紹介】

  • 本記事は2018年4月のメールマガジン配信記事です。

さて、前回は「テレワーク導入を先導したのは外部要因の変化【佐賀県庁のご紹介】」についてお送りいたしました。佐賀県庁にテレワークが導入された経緯について森本さんに語っていただきましたね。森本さんは「佐賀県庁に導入するなんてテレワークの「テ」の字も考えていなかった」そうです。それがテレワーク導入に舵を切ったのは、災害やパンデミックの対策や出産、育児、介護などによる離職の対策に現場責任者たちが動き出したことが要因でした。
第12回 実証事業からテレワーク全庁導入へ踏み切るまで【佐賀県庁のご紹介】前編に引き続き、佐賀県庁のテレワーク導入事例をお送りします。自治体として全国に先駆けてテレワークを導入した佐賀県庁。森本さんや3人のキーマンが動き出し、いよいよ実証事業がスタートしました。4000人もの職員が在籍する県庁でテレワークは受け入れられるようになっていくのでしょうか。
この佐賀県庁での事例は「前編・後編」でお送りしています。それでは、後編にお付き合いください。

1. 推進チームが実証事業で施した「3つの仕掛け」

4000人もの職員にテレワークを導入した佐賀県庁。「保守的」といわれることの多い役所がどうやって最先端の職場環境を手に入れたのか。大きな組織でテレワークを実現させる好例として、その経過を前後2回に分けて紹介している。
前回は森本登志男さんが佐賀県最高情報統括監(CIO)として着任した2011年4月からテレワークの実証事業がスタートする2013年8月までの流れを追ってみた。その中で、佐賀県庁のテレワーク推進を決断したきっかけとして、以下の2つを紹介した。

推進チームが実証事業で施した「3つの仕掛け」
  • 職場の問題(非常時の業務継続、育児・介護離職の防止、女性活躍など)の解決の手段として現場責任者からボトムアップで始まったこと
  • 森本さんと責任者とで組織体制が自然と出来上がっていたこと——の2点が、実現の強力な推進力となったこと

テレワークの実証事業は2013年8月から2014年3月まで行われた。具体的にはタブレット端末や仮想デスクトップの活用、サテライトオフィスの開設によるテレワークの体験である。ここで森本さん率いる推進チームは3つの仕掛けを施した。

  1. 「手挙げ方式」によるモバイル端末の配布
  2. 全管理職による週1回のテレワーク実施
  3. 3回にわたる報告会の開催

2. 森本さんがタブレット端末の配布を「手挙げ方式」にした理由

仕掛け1

用意したタブレット端末100台についての配布方法を「手挙げ」による選考方式とした。つまり、推進チームがバランス良く均等に配布するのではなく、希望する部署は現状の課題に対してモバイル端末を活用してどう解決するのかを書類で提案し、それを審査したうえで配布するという方法をとった。

決森本さんがタブレット端末の配布を「手挙げ方式」にした理由

「実証事業に際してはさまざまなデータをとってもらうなど部署にも負担がかかります。機械的に配って『やらされる』と感じるより『やってみたい』と強く希望している部署に配布し、より有効に使ってもらえることを期待しました」と森本さんは説明する。
196台分の希望があったがそれを半数に絞った。第三者から見て有効活用できそうな部署でも、提案書に熱意がうかがえなければ配布しなかったという。

仕掛け2

タブレットの配布は「手挙げ」による自薦方式とし、管理職には週1回のテレワーク実施を〝事実上〟義務づけた。
これは連載6回目でも触れたが、

  • IT活用や従来と違う働き方の導入といった変化を好まない年齢層が中心
  • 自分の目の届かないところで部下が働くことへの不安
  • 職員が在宅勤務やモバイルワークを行う際の承認権者となる
  • 部署によってモバイルワーク推進の温度差があるのは管理職の影響が大きい

こうした問題が予測されることから、まず管理職自身に体験させるのが目的だ。 森本さんは「テレワーク導入の成否を握るのは〈職場環境の醸成〉です。つまりテレワークすることを遠慮せずに上司に言えるかどうか。それには管理職が『テレワークって便利だな』と納得してもらうことが大切なんです」と強調した。ただし、管理職層の年代が不慣れなタブレット端末は使用せず、

  • 県内外13カ所に設置したサテライトオフィス勤務
  • 在宅勤務
  • 出先でのモバイルワーク

をテレワークとした。

3. 知事が思わず即断「テレワーク実証事業の報告会」

仕掛け3

タブレット端末を活用してどんな効果が生まれたか——その報告会を3回(2013年9月、同年10月、2014年2月)にわたって実施した。

知事が思わず即断「テレワーク実証事業の報告会」

森本さんによると「テレワークの効果を確認してもらう」「他部署の活用方法を知ることで自部署の新たな活用方法に気づいてもらう」「タブレット端末が配布されなかった部署に報告会を通して情報を届ける」の3点が狙いだった。報告会では「案件がその場で解決でき持ち帰り対応の回数が減った」「現場から自宅へ直帰できる回数が増えた」——などの改善例が報告された。
2回目の報告会ではタブレットが配られてない部署からの聴衆が増えたという。全庁的な関心事になったということだ。実証事業期間の後半で実施したアンケートで「タブレット端末を導入したい」という回答が700件を超えたことで、森本さんは初めて全庁導入が成功する確信を持ったという。
締めくくりの第3回報告会は、以前から開催されていた「業務改革報告会」を舞台にした。知事、副知事、教育長、全部長が出席する催しで、アピールするには格好の場である。ここでテレワーク実証事業の効果を各部署がプレゼンした。最後に森本さんが壇上に立つと、知事から全庁で実施した場合の費用を尋ねられたという。県行政のトップからテレワークの全庁実施を政策として検討するよう指示が出たのだ。
2月の年度末であったが異例の速さで翌年度導入の予算が付き、佐賀県庁の全庁テレワークは2014年10月1日にスタートした。

4. 森本さんが語る「テレワーク成功の要因」

佐賀県庁のテレワーク導入から3年余り、現状はどうだろうか。

森本さんが語る「テレワーク成功の要因」

2017年11月に在宅勤務の利用状況をアンケート調査した結果がある。
それによると利用率13.2%(男性13.2%、女性13.1%)だという。内訳を見ると、介護や育児をしていない職員でも10%(男性9.9%、女性10.1%)の利用がある点が注目される。まさに森本さんの言う「育児や介護のためだけではない、普通の働き方としてのテレワーク」が浸透しつつある結果といえる。

佐賀県庁のテレワーク導入を振り返って、成功の要因について森本さんに尋ねた。答えは次の3点だった。

  • 組織横断の推進チームをつくること
  • 実証事業を丁寧にやること。中でも「手挙げ方式」と「管理職のテレワーク体験」は有効であること
  • 佐賀県庁の場合は一気に全庁導入を実現したが、一般的にはできるところから始めること。大きなルール変更や設備投資は大変。小さく始めて大きく育てる、スモールステップを心がけること

あとがき

佐賀県庁のテレワーク導入の経緯から、実証事業での効果検証、効果や改善例の報告会、実際の導入まで、森本さんがどのように行って成功させたのかを具体的に見ていくことができました。タブレットの配布の仕方、管理職を納得させるための施策などとても参考になる内容だったと思います。
第13回はガラリと変わって「テレワークで見えたストレスフリー型オフィス」についてお送りします。
進学や就職で首都圏に集まっていた人たちが地元に戻ったり新天地を求めたりして移住しているニュースを目にする機会が増えました。そうした人の流れによって地方活性化が期待されるなか、UターンやIターンで地方に移住した人たちのテレワーク活用が話題になっています。ストレスフリー型オフィスとは一体どういったものなのでしょう!?次回もお楽しみに!